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労災による後遺障害1級の認定範囲と慰謝料基準

最終更新日 2024年 02月20日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠

労災による後遺障害1級の認定範囲と慰謝料基準  
 
労働災害で手厚い介護を要する重い後遺障害を負った場合、保険請求により等級認定され、第1級と判断される可能性があります。

後遺障害1級のおおよその給付額は、障害(補償)給付として一時金の他におおよそ賃金の313日分、慰謝料基準として2,800万円とされます。

本記事では、1級認定のための基礎知識として下記を押さえます。万一の時、被災労働者とその家族が穏やかな生活を取り戻すための手がかりとなるはずです。
 
  • ・労災保険制度における第1級認定の基準(具体例あり)
  • ・後遺障害1級の労災保険給付の内容、慰謝料の基準
  • ・後遺障害1級に認定されるためのポイント
  • ・会社に対する損害賠償請求の基本、弁護士の必要性
   

労災による後遺障害1級の認定範囲・認定基準

労災で後遺障害1級とされる範囲は一定ですが、いずれも就労は全く不可能と言わざるを得ず、常時またはそれに近い介護を必要とします。最初に、法律及び規則に沿って第1級の認定範囲・認定基準を整理してみましょう。

障害等級1級に認定される範囲

労災で負った後遺障害の認定は、労働者災害補償保険法施行規則の「障害等級表」に沿って行われます。表で第1級とされるのは、次の障害です。
 
  • ・両眼が失明したもの(1号)
  • ・そしゃく及び言語の機能を廃したもの(2号)
  • ・神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの(3号)
  • ・胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの(4号)
  • ・両上肢をひじ関節以上で失ったもの(5号)
  • ・両上肢の用を全廃したもの(7号)
  • ・両下肢をひざ関節以上で失ったもの(8号)
  • ・両下肢の用を全廃したもの(9号)
    ※5号は削除

併合・加重による1級認定

第2級以下の後遺障害が2つ以上あるケースでは、併合等認定基準で第1級に認定される場合があります。

個別事例での認定は、各障害を所定の「併合判定参考表」に当てはめて判定した後、判定した区分をさらに「併合(加重)認定表」に当てはめます。 最終的には、認定表に沿って下記のように判断されます。

参考資料:併合等認定基準

障害が2個の場合

併合判定参考表上の区分につき、それぞれに当てはめます。認定表によれば、いずれの障害も第2級2号~4号・第3級5号に当てはまる場合に、後遺障害1級と判断します。

障害が3個の場合

併合判定参考表上の区分に基づき、最下位2つの障害を認定表に当てはめて判定します。同様の判定を繰り返すことで、後遺障害等級が判断されます。

保険給付・障害等級を判断するのは会社ではない

労災保険による補償(労災申請後の給付)や、後遺障害等級は、会社が判断するわけではありません。

いずれの判断も、産業医や労働衛生管理者が所属する労働基準監督署に委ねられています。もしも「事故状況から見て労災申請はできない・保険は下りない」等と会社が言うのなら、違反行為にあたる労災隠しの疑いがあります。

労災による後遺障害1級の具体例

労災による後遺障害1級の具体例  
 
労災の後に後遺障害1級と判断される例として、具体的にどんなケースが考えられるのでしょうか。

以下では典型的な例のみ紹介しますが、該当する症状は他にも様々です。負傷した部位や医師の見立てに不安を覚える際は、弁護士にヒアリングしてもらい、労災保険上どのように判断されるのか意見を聞いてみましょう。  

聴力・視力の障害

耳や目の障害で後遺障害1級と判断される労働災害の例として、次のようなものが挙げられます。
 
  • ・金属加工作業中の事故で両目を怪我し、いずれも失明した(第1級1号)
  • ・有毒ガスを吸引してしまい、両目の視力の合計が0.05以上0.08以下となり、耳の障害で平衡感覚も著しく障害が出た(併合1級)
 
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上肢・下肢の障害

上肢・下肢の障害で後遺障害1級と判断される労働災害の例としては、次のようなものが挙げられます。
 
  • ・トラックの車輪に巻き込まれ、両下肢をひざ関節以上で切断した(第1級8号)
  • ・作動中のローラーに手をついて強くひねり、両上肢の関節が強直して動かなくなった(7号)
 
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神経系統・精神・その他の障害

その他の後遺障害1級とされる症状には、頭を強く打つ等して発生する次のようなものが挙げられます。
 
  • ・高所作業中に安全帯が外れて落下し、脊髄損傷で全身麻痺の状態になった(第1級3号)
  • ・荷物の仕分け用のベルトコンベア上で転倒して顔を強く打ち付け、自力での咀嚼が不能になった(第1級2号)

労災による後遺障害1級の給付内容と慰謝料基準

後遺障害1級の給付内容と慰謝料基準  
 
労災で後遺障害1級と判断された場合、療養、障害、介護を中心に労災保険制度による給付が得られます。

また、本人及び近親者につき、その精神的損害に対する補償である慰謝料請求権も生じます。各補償の内容及び金額の基準は以下の通りです。

労災保険給付の内容

労災保険制度は、補償対象によって細かく給付内容が分かれています。労働災害が発生した直後は、療養給付・休業給付で治療費及び収入が補てんされます。後遺障害1級と診断されるケースでは、一般的に、障害給付が非常に大きくなります。

給付の種類 給付内容
療養(補償)給付 治療費、入院料、移送費など通常療養のために必要な費用の全額
休業(補償)給付 給付基礎日額の60%+特別支給金として給付基礎日額の20%
※療養による休業4日目から支給
障害(補償)給付 一時金:障害特別支給金として342万円
年金:障害補償等給付+障害特別年金
※年金は被災前の収入をベースに計算する
傷病(補償)給付 一時金:傷病特別支給金として114万円
年金:給付基礎日額313日分+傷病特別年金として算定基礎日額313日分
※いずれも治療期間が1年6か月を超える場合に支給
介護(補償)給付 常時介護の場合:介護の状況に応じて最大172,550円(令和5年4月以降)
随時介護の場合:介護の状況に応じて最大86,280円(同上)
その他の給付 二次健康診断等給付、社会復帰促進等事業による給付

障害(補償)給付の計算方法

労災の障害給付は、障害特別支給金・障害補償等給付・障害特別年金で構成されます。

障害特別支給金は認定時に342万円と一定ですが、障害補償等給付は給付基礎日額313日分、障害特別年金は算定基礎日額313日分が支給されます。
 
▼給付基礎日額とは
労働基準法の平均賃金に相当し、傷病発生日の直前の3か月間の賃金総額(賞与や臨時支給金等を除く)を暦日数で割って算定します。

 
▼算定基礎日額とは
事故発生日または診断によって病気にかかったことが確定した日以前の1年間に、その労働者が事業主から受けた特別給与の総額(賞与等)を365で割った額です。

  例として、次のような場合を考えてみましょう。

【例】前年度の賞与70万円、賃金として1か月あたり総支給額35万円をもらっていた現場担当の男性、遷延性意識障害(いわゆる植物状態/第1級3号)と診断された
※3か月分の暦数=92日とする
 
給付基礎日額:35万円×3÷92=11,414円(※1円未満の端数は切り上げ)
算定基礎日額:70万円÷365=1,918円(※同上)
障害補償等給付:1年につき11,414円×313日=3,572,582円
障害特別年金:1年につき1,918円×313日=600,334円

  →障害特別支給金342万円が支給され、さらに年金として4,172,916円(約417万円)の支給あり

後遺障害慰謝料の基準と注意点

後遺障害1級の慰謝料の相場は、弁護士が用いる基準で2,800万円です。生活が大きく一変する重い障害であるため、近親者分の慰謝料として1人200万円程度の請求が認められることもあります。

慰謝料請求で注意したいのは、労災保険制度での補償がない点です。被災者らの精神的苦痛について補償してもらおうとするなら、会社(使用者)に損害賠償請求しなければなりません。

同時に、発生した労働災害の原因について、会社の法的責任(安全対策の不足等)を主張・立証する必要があります。
 
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労災による後遺障害等級認定の手続き方法と流れ

労災による後遺障害等級認定の手続き方法と流れ  
 
労災による後遺障害等級認定は、事故直後の療養から始まり、後遺障害が確定する「症状固定日」以降の申請で進みます。等級認定の審査は、障害給付・傷病給付の請求によって進められます。大まかな対応の流れは次の通りです。

労災発生直後の対応

労災事故が発生した直後は、速やかに会社の責任者に報告し、原則として指定労災病院に搬送します。

搬送先で払う治療費については、療養給付用の請求書を提出すれば、自己負担ゼロで対応できます。指定外病院に搬送された場合は、保険給付の開始が遅れ、治療費の一時立て替えが発生する点に要注意です。

後遺障害について申請するタイミング

労災保険で後遺障害等級認定のための申請は「症状固定」の診断が下ってから行われます。

症状固定とは、医師が「これ以上治療しても症状改善の見込みはない」と判断したことを意味します。

障害給付用の請求書・医師の診断書の準備

症状固定後、障害給付用の請求書と医師作成の診断書を提出すると、等級認定の後に後遺障害に対する保険給付が始まります。

請求書・診断書の他には、検査資料、給付額計算の参考資料となる給与明細、通院証明書、検査結果のコピー等も提出しなければなりません。

労働基準監督署の審査

後遺障害等級認定の審査は、医師の診断書や検査資料等の書類審査が中心です。その他には、労働者災害保険法第47条に基づく調査も実施されます。

主な調査方法として、被災労働者への調査票送付と回収、会社側への労働実態の聞き取り、医療機関からの意見書回収、健康保険組合に対する聞き取り等が挙げられます。

障害の状況によっては、被災労働者自ら労基署に赴き、調査官と面談しなければなりません。

認定結果の通知

労災保険給付の支給もしくは不支給決定通知が届く時期は、請求書提出から3か月以内が一般的です。

この通知内で、後遺障害の等級認定の結果と振込先口座の確認が行えます。

障害の状況によっては、通知書の到着まで請求書提出から半年以上かかるかもしれません。

上記の事情から、症状固定後は速やかに請求書提出を終えられるよう心がけたいところです。

労災による後遺障害1級と認定されるためのポイント

後遺障害1級と認定されるためのポイント  
 
労災により後遺障害1級と認定されるには、後遺障害診断書上で事故直後からの経過・症状について説明を徹底する必要があります。

診断書を作成するのはもちろん医師ですが、被災労働者及び家族として、治療中から次のようなポイントを念頭に入れておくべきです。

労働災害との因果関係の証明

後遺障害等級認定は、実際に起きた事故・災害と症状との因果関係の証明が前提です。

症状につき「労災とは関係ないもの」や「既往症が悪化したもの」と判断されると、認定対象外となってしまいます。

因果関係の証明は、丁寧に治療・検査を受けて医師から説明を受け、これを診断書や意見書に反映して労基署にも把握してもらうことが大切です。

症状の程度、実際に現れている生活上の支障の証明

後遺障害1級に認定される症状の中には、外見上分かりにくい例もあります。

認知機能や感情制御に障害が出る、高次脳機能障害です。この場合、家族や本人が自ら生活上の支障を説明するための「日常生活報告書」を添付し、状態を証明する工夫が必要です。

認定結果に納得できない時の不服申立て

後遺障害等級の認定結果に納得できない時は、原処分につき不服申立て(審査請求)が認められています。審査請求の期限は、原処分から3か月以内です。

不服申立てで1級獲得を目指すなら、当初提出した書類だけでは足りません。

改めてCT・MRI検査を実施する等して新規資料をもらい、請求用の書類に含める必要があります。対応方法はケースバイケースであるため、弁護士に相談しましょう。
 
【関連記事】
労災で適切に後遺障害等級が認定される人、されない人の違いとは

労災の後遺障害対応について弁護士に相談するメリット

労災の後遺障害対応について弁護士に相談するメリット  
 
労災で負った後遺障害の対応は、労働者側の代理人として知識・経験を持つ弁護士に相談すると安心です。

自力で対応すると、ただでさえ複雑な手続きに対応しきれず、1級に当てはまる重い障害では大きく損をしてしまうかもしれません。

被災労働者本人と家族の安心のため、以下のようなメリットを踏まえ、早めに弁護士とコンタクトをとることをおすすめします。

労災補償を取りこぼさない

労災保険の仕組みや手続きは複雑です。会社に対して慰謝料等を請求する場合でも、適正額の計算にあたって知識が求められます。特に等級認定で1級とされる重い後遺障害では、計算・交渉でのミスが許されません。

労災補償について最新情報を交えて学習しており、経験・実績も十分な弁護士なら、手続き及び請求額計算をスムーズに行えます。結果、補償の取りこぼしを限りなくゼロに近づけられます。

証拠収集・治療サポートで適正額獲得に繋げられる

後遺障害1級の原因である重大事故では、より慎重な証拠集めと受診方針が求められます。

万一にも労働者側の無過失を証明できなかったり、診断書上で症状や労災との因果関係があいまいになったりすると、受け取れる金額が大きく変わるからです。
弁護士は、所轄労基署に対して保有個人情報開示請求を実施し、事故の経緯にかかわる資料集めと調査をしっかりと行えます。

被災労働者や家族のケアを通じて、診断書に情報を網羅するための適切な治療方針もサポート可能です。

示談交渉・訴訟で不利にならない

労災の示談交渉や訴訟手続では、労働者側が不利になりがちです。

重い障害では、早々から「職場復帰の見込みが立たない」として退職手続きを迫られ、やむなく応じてしまうケースも後を絶ちません。

早期に雇用契約を終了させてしまうと、補償額の算定や情報収集で著しく不利になるため、本来なら避けるべきです。

上記のような立場の違いも踏まえ、示談交渉・訴訟を進めようとするなら、弁護士を代理人とするのが一般的です。労災を中心とする法律トラブルの対応経験に基づき、労働者の権利を擁護しながら、対等に話し合えるようになります。
 
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労災事故が起きたときの示談交渉の基本・解決までの流れ

おわりに│重度障害が避けられない労災は速やかに弁護士相談を

労災保険制度による後遺障害等級認定は、医師の診断書を中心とする書類審査で行われます。

症状を的確・適切に把握して高い等級を獲得するため、まずは治療・検査をしっかりと実施していく必要があります。

補償される金額については、複雑な制度内容から保険金額を計算し、損害賠償請求権との繋がりを個別に見極めなくてはなりません。

後遺障害1級の慰謝料請求では、会社(使用者)と激しく対立するリスクが十分想定されます。

重度障害が避けられない労災に遭った時は、早めの弁護士相談を心がけ、付添・治療に集中しながら適切に手続を進めることが大切です。
 
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