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労災事故が起きたときの示談交渉の基本・解決までの流れ

最終更新日 2024年 02月20日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
労災事故が起きたときの示談交渉の基本・解決までの流れ  

労災事故が起きた時、事故原因について会社の責任が認められる場合は、労災補償給付申請とは別に損害賠償請求も行いましょう。請求にあたっては、示談交渉が必要です。

会社との示談交渉では、最低限持っておきたい知識があります。請求額の計算に繋がる労災保険の給付と会社の損害賠償義務の違いや、責任の法的根拠、事故発生から解決までの全体の流れです。

もしもの時はこの記事に目を通すことで、被災した労働者として適切な金額をもらうのに役立ちます。

労災事故で示談交渉が必要になる理由

労災事故で会社と示談する必要になるのは、事故について会社に安全配慮義務違反の民事責任があり労災保険の給付だけでは足りない場合です。

示談とは、法律トラブルについて当事者で話し合い、裁判手続に頼らず合意により解決することを指します。

労災事故では、損害賠償金について支払うべき額を合意し、これ以上解決すべき問題がないことを確認する手続きとなります。

労災保険給付と会社の損害賠償義務は別

労災事故に遭った時に理解しておきたいのは、保険給付と会社の損害賠償義務は別物であるという点です。根本的な違いとして、次のように言えます。

労災保険の給付:労災認定さえあれば過失割合に関わらず必ず支払われるが、金額は一定。

損害賠償義務:労災認定があっても果たされるわけではない、交渉で個別に金額を決める。交渉で合意に至らない場合は、裁判で解決を図る。

労災事故について会社に非があるのなら、損害額と自己の過失の度合いに応じ、被害者に適正額を全額受け取る権利が生じます。

受け取るべき金額は、労災保険の給付額を超えるのが一般的です。後遺障害や死亡に至る事故では、特に会社の責任及び請求できる額が大きくなると言えるでしょう。

そこで、会社と示談して損害賠償金を算定し、給付される保険金の額を適切に控除して差額を支払ってもらわなくてはなりません。

労災保険の給付内容

労災事故等で生じた損害には、財産的損害と精神的損害の2種類が含まれます。

労災保険による給付は、財産的損害のうち治療費(=療養給付)のみを全額カバーしますが、他の項目については、実際に不足が生じ得ます。

労災保険の足りない部分として、慰謝料と呼ばれる精神的損害については全く補償がない点を指摘できます。

財産的損害については、休業に対する補償と逸失利益の部分が問題です。休業給付だと、休業4日目以降、収入(正確には給付基礎日額)の最大80%分しかもらえません。

後遺障害や死亡による逸失利益も、障害補償給付・遺族補償給付等があるものの、労災事故によっては全額カバーできないのが現実です。

労災事故発生から示談交渉による解決までの流れ

労災事故発生から示談交渉による解決までの流れ
 
労災事故が発生した時は、速やかに医療機関を受診し、労災申請の手続きと示談交渉の準備を同時に進めます。

解決までの期間は、示談交渉だけ会社からの支払いがあれば早いものの、訴訟等の裁判手続になると長期化及び専門的対応は避けられません。

示談交渉を挟む大まかな対応の流れとしては、次のようになります。

報告と速やかな療養

まずは速やかに医療機関を受診し、災害発生時の状況や怪我の状況等を会社に報告します。

これらの判断は、最低限もらえるはずの労災保険の給付のために必要です。

受診するかどうかは怪我の度合いに関わらず、軽傷でも必ず、すぐ病院に行くようにしましょう。

労災発生から受診までの間隔が空いてしまうと、保険給付のための認定に必要な業務起因性の証明が難しくなります。

労災事故による損害額の計算

次に行うのは、労災事故による損害額の計算です。

計算を行うのは、傷害だけで後遺障害がない場合はその治ゆした段階、後遺障害がある場合は症状固定日(これ以上は症状が改善しないと判断される日)です。

なお、損害額の計算は、労働者の状況に応じて各費目を合計するように行います(下記参照)。

▼傷害だけで後遺障害がない場合
治療費+入通院にかかる諸雑費+休業損害+入通院慰謝料
 
▼後遺障害があり、等級認定を得た場合
上記+後遺障害による逸失利益+後遺障害慰謝料
※必要に応じ、住宅改善費用、介護費用、補装具費用等も加算
 
▼死亡した場合
傷害だけで後遺障害がない場合の各費目の合計+死亡による逸失利益+死亡慰謝料
※死亡による逸失利益は近親者分も計算できる
 
【関連記事】
労災で適切に後遺障害等級が認定される人、されない人の違いとは
 

労災保険分の控除・過失相殺

労災保険分の控除・過失相殺

実際に請求する額を決めるにあたっては、損害額について保険金の控除と過失相殺が必要です。

適切に行えないと、示談交渉してもなお十分な支払いが受けられない恐れがあります。

労災保険から確実に控除されるのは、療養給付と休業給付の基礎部分だけです。

収入に対する休業給付最大80%のうち20%部分にあたる特別支給金や、現に支給が確定していない年金等については、保険給付と会社が支払うべき額との相殺は行われません。

過失相殺の一般的な目安は労働者3割とされ、上記控除の前に行われます。

示談交渉の開始

請求すべき金額や会社の責任について明らかになれば、いよいよ示談交渉を開始します。交渉は書面で行い、どんな対応があったのか記録に残る形とするのが基本です。

示談交渉は労働者自身で行っても良いのですが、多くの場合、会社が責任を認めたがらずなかなか上手く進みません。
労災事故の対応にほんの僅かでも不安があったり、不当に解雇されたりした時は、弁護士を通すようにしましょう。

示談書の作成または労働審判・民事訴訟

示談交渉が上手く行かない場合は、民事訴訟等といった裁判手続で決着を図ります。

この場合、証拠を添付して申立書類を作成し、裁判所で適切に怪我の状況と追及したい会社の責任を述べる手続きが欠かせません。これらは専門的な対応であり、弁護士の分野です。

会社の損害賠償義務の法的根拠

労災事故分 労災事故における会社の損害賠償義務は、会社との契約に基づく債務不履行の責任か(民法第415条)、不法行為責任(民法709条等)、もしくはその両方を根拠として請求できます。

示談交渉で会社の支払いに対する合意をとりつけるには、下記の法律上の考え方と事実関係を照らし合わせ、何を根拠に損害賠償義務を主張するのか検討しなくてはなりません。

債務不履行の責任(安全配慮義務違反)とは

債務不履行の責任は、労働契約法第5条で定められる安全配慮義務に違反した時に生じます。

安全配慮義務とは、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮を行う義務です。

具体的には下記2つの要素から構成され、いずれかを怠った会社には損害賠償義務が生じると考えられます。

▼施設管理の例
作業場や、危険性のある設備・原材料の管理を徹底する
作業する時の服装を整備する
 
▼人的管理の例
安全衛生や作業訓練の教育を十分に施す
労働者の健康診断を行い、その結果と能力・技術を考慮して作業指示する
 

不法行為責任とは

不法行為責任は、労災事故が会社の故意または過失により違法になされた時に生じます。具体的に問うべき責任は、事故発生及び傷害を負う原因によって分かれます。

不法行為責任の種類 具体例
一般的不法行為(第709条) 個人事業主の委託者に起因する労災事故、原因を特定の人物や工作物に限定できない労災事故
使用者責任(第715条) 他の従業員のミスや、従業員間の暴行その他ハラスメントによる労災事故
注文者責任(第716条) 極端な短納期等、注文者の無茶な指示による労災事故
工作物責任(第717条) トンネル・池・電線等、土地の工作物の瑕疵(=欠陥)による労災事故
その他 使用者の注意義務(危険を早期に予見し労災発生を防止する努力を行う義務)に反することで生じた事故、社用車による事故(運航供与者責任)等

労災事故で会社との示談を成功させるためのポイント

労災事故で会社との示談を成功させるためのポイント 労災事故で会社との示談交渉を成功させるため、下記3つのポイントに留意して必ず守るようにしましょう。

当事者もその家族も、事故発生からちょっとした対応も慎重に進めることで、適切な金額の獲得に繋がります。

なるべく ・初回受診のタイミングで弁護士に相談する
・自己判断で退職したり、退職勧奨に応じたりしない(請求額で不利になる可能性あり)
・労災事故の原因が日頃からみられるものであれば、証拠確保に動く(タイムカード入手等)

まとめ

会社の責任で労災事故が起きた時は、労災保険制度による給付だけでは足りません。

示談交渉で損害賠償責任を追及し、足りない部分を補うようにして会社から適正額を支払ってもらう必要があります。

請求の際に必要なのは、損害額から控除すべき保険金の限度を知り、責任の法的根拠を見定めることです。

初動対応から、事故発生後の速やかな受診も欠かせません。いずれも自力で行ってしまうと損をする可能性が非常に大きいため、初動から請求額の計算・示談交渉の実践まで弁護士に任せることをおすすめします。

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