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労災事故で高次脳機能障害になった時の後遺障害等級認定基準・損害賠償請求

最終更新日 2024年 02月20日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
労災事故で高次脳機能障害になった時の後遺障害等級認定基準・損害賠償請求

労災事故で高次脳機能障害になった場合は、労災申請で業務災害としての認定及び等級認定を得ることで、障害年金・一時金・傷病給付等が得られます。

保険給付では不足する慰謝料等については、事故について安全配慮義務等の法的責任が問える場合に、損害賠償請求によって会社から支払われます。

高次脳機能障害は、社会性が著しく損なわれる一方で、外見上分かりくいため理解が得にくい特徴を持ちます。

こうした重い障害を負ってしまった場合は、本稿の基礎知識を得ておくことで、適正な補償の獲得に役立ちます。

▼本記事で解説する内容
高次脳機能障害の基本的な特徴と症状
労災補償の仕組み(労災保険・損害賠償)
高次脳機能障害の労災認定・等級認定の基準
会社に損害賠償請求するための基礎知識
 

高次脳機能障害の特徴と症状【基礎知識】

高次脳機能障害の特徴と症状【基礎知識】

高次脳機能障害とは、記憶・認知・判断・言語などの社会生活に関わる能力が損なわれる状態を指します。

症状は記憶障害・注意障害・遂行機能障害・社会的行動障害の4つに分類され、友人・知人・同僚等とのコミュニケーションや業務遂行に大小さまざまな影響があります。

高次脳機能障害の4つの症状

記憶障害:物を置いた場所を忘れたり、同じ事を何度も質問したりする。

注意障害:不注意によるミスが多くなったり、集中力が持続しなくなったりする。

遂行機能障害:計画的に物事を進めることが出来なくなる、遅刻しがちになる。

社会的行動障害:感情の制御が出来ず、怒りっぽくなったり自己中心的になったりする。

これらの症状の原因となるのは、労働災害や交通事故等の強い衝撃によって引き起こされた外傷性脳損傷です。

損傷と言っても、必ずしも重いものとは限りません。

軽い意識障害を起こす程度の事故や、撮影した画像では損傷がほとんど分からないようなケースでも、後遺障害に至る可能性があります。

被害者の外見も、少し対面で会話する程度だと事故の影響や受傷部位が分からない場合がほとんどで、周囲の理解が得にくい障害だと言えます。

高次脳機能障害に対する労災補償の仕組み

高次脳機能障害に対する労災補償の仕組み

高次脳機能障害の原因が労働災害である場合、労働者または雇用する事業主が労働基準監督署に申請することで、労災給付の対象となります。


また、後遺障害等級認定を受けることで、障害補償として一時金や年金の給付があります。

なお、上記給付をもってしても、損害のうち精神的苦痛に対する慰謝料はカバーされません。
慰謝料全額や逸失利益の不足分については、会社に損害賠償請求する必要があります。

労災申請すると保険給付がある

労災保険は、業務上の事由または通勤による傷病について、療養や休業補償などの必要な給付を行う制度です。

高次脳機能障害の原因となった事故が労働災害と認められるものであれば、労働者もしくは雇用する事業主が労働基準監督署に申請することで、治療費等が保険給付の対象となります。

労災保険による補償金額は等級で変わる

労災申請によって保険給付の対象となるケースでは、負った高次脳機能障害について、意見書等の審査書類を提出することで、障害等級表に応じた全14等級のどれかに認定されます。

その結果、保険給付による補償の総額は、高い等級に認定されるほど高額化します。

高次脳機能障害の特徴のひとつに、症状の程度及び内容に多様性が見られる点が挙げられます。

十分な保険給付を得るためには、症状について適正な等級を獲得しなければなりません。

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労災保険の補償外部分は損害賠償請求する

労災保険給付にはさまざまな種類があるものの、精神的苦痛に対応する後遺障害慰謝料は補償対象外です。

また、労働能力の喪失に伴って得られなくなった将来分の収入(=逸失利益)についても、保険給付では足りない場合があります。

こうした労災保険でカバーされない部分については、会社に損害賠償請求する必要があります。

高次脳機能障害の障害等級と補償内容

労災で高次脳機能障害を負った時は、療養給付で治療費等が補償される他、認定された障害等級に応じて障害給付・傷病給付をもらえます。

次の表は、後遺障害等級に応じた労災保険による補償額、会社に対して損害賠償請求をする場合の等級毎の慰謝料の相場と逸失利益を請求する場合の労働能力喪失率です。

※支給要件:療養開始後1年6か月を経過した日またはその日以降、その負傷または疾病が治っておらず、傷病等級表の第1級~第3級に該当する場合
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高次脳機能障害の労災認定

高次脳機能障害の労災認定

高次脳機能障害を引き起こした事故について労働災害と認められるには、業務災害の認定基準を満たさなくてはなりません。

その上で、補償額の基準となる障害等級は、画像検査の結果及び喪失した能力に基づいて評価されます。労災認定及び障害等級の認定基準については、次のように定められています。

労災認定の対象となる業務上の事故

労災認定が適用されるには、労働基準法及び労働者災害補償保険法施行規則で定める「業務災害」と認定される必要があります。

認定条件及び基準については、次のように定められています。
・労働者の担当している業務が、使用者の事業の範囲にある
・労働者の被災が、使用者の事業の危険性から発生している
・業務起因性(業務と災害・人身損害との間の相当因果関係)が認められる
・業務遂行性(労働者が使用者の支配下にある状態)が認められる
 

高次脳機能障害の等級認定の基準

労災事故で負った高次脳機能障害について後遺障害と認められるには、器質的病変(=症状の原因と言える異常)が分かる画像診断の結果が必要です。

検査画像で怪我や症状の重さについて判断がつきかねるとしても、さらに「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準」にある4能力に着目して等級の判断が行われます。

各能力の評価は医師が行い、その結果に基づく等級の考え方は、同じく認定基準にある整理表にまとめられています。

認定基準上の4能力とは

認定基準上の4能力は下記のように定義され、それぞれ「わずかに喪失」から「全部喪失」までの6段階で評価されます。

意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力等)
職場において他人とのコミュニケーションを適切に行えるかどうか等について判定する。主に記銘・記憶力、認知力又は言語力の側面から判断を行う。
 
問題解決能力(理解力、判断力等)
作業課題に対する指示や要求水準を正確に理解し適切な判断を行い、円滑に業務が遂行できるどうかについて判定する。主に理解力、判断力又は集中力(注意の選択等)について判断を行う。
 
作業負荷に対する持続力・持久力
一般的な就労時間に対処できるだけの能力が備わっているかどうかについて判定する。
精神面における意欲、気分又は注意の集中の持続力・持久力について判断を行う。その際、意欲又は気分の低下等による疲労感や倦怠感を含めて判断する。
 
社会行動能力(協調性等)
職場において他人と円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうか等について判定する。
主に協調性の有無や不適切な行動(突然大した理由もないのに怒る等の感情や欲求のコントロールの低下による場違いな行動等)の頻度についての判断を行う。
 

4能力の総合評価に基づく等級の基準

4能力の評価その他の医学的資料は、下記の等級基準に当てはめて等級の判定材料とされます。また「高次脳機能障害整理表」にある能力喪失の例も用いられます。

労災による高次脳機能障害と損害賠償請求

労災による高次脳機能障害と損害賠償請求 労災による高次脳機能障害の場合、労災申請だけでは十分な補償が得られないことがあります。

会社に法的責任がある場合には、損害賠償請求を検討することで、より適切な補償を受けることができます。専門家や弁護士と相談し、適切な手続きを行いましょう。

会社の法的責任の立証が必要

会社に損害賠償義務が生じるのは、事故について法的責任が生じている時です。

例えば、備品不良・過重労働等によって事故に発展した場合は、安全配慮義務に違反したとして債務不履行責任に問えます。

従業員間のハラスメントが作業ミスに繋がった場合等は、直接の加害者である個人ではなく、会社の使用者責任を問うことが可能です。

これら法的責任については、会社が否定する可能性が高く、普段の労働時間や従業員の証言等といった立証できるものが必要です。

過失相殺・素因減額の可能性

高次脳機能障害の損害賠償金は高額に及びます。

請求する際の会社の対応として考えられるのは、労働者の過失や既往症による影響を主張し、過失相殺・素因減額により支払いを減らそうとする動きです。

被害者側としては、労働基準監督署に開示請求し、労災発生の報告を受けて作成される復命書を検証する等、あらかじめ対策しておかなくてはなりません。

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高次脳機能障害の労災補償を適正に受け取るためのポイント

労災補償を適正に受け取るためのポイント

高次脳機能障害の労災補償を適正に受け取るには、専門医を受診して書類上でしっかりと症状の説明を行えるようにしなくてはなりません。

この時、損害賠償請求の手続を含め、事故発生直後から弁護士にしっかりとフォローしてもらうのがベストです。

専門医を受診し、意見書作成を依頼する

高次脳機能障害の診断及び治療には、必要な検査の判断も含め、外傷性脳損傷に詳しい専門医の受診が重要です。

知見のある医師だからこそ、認定基準に当てはめて審査される意見書(労災申請のため用意されている書式のひとつ)で正確な状況を伝えられます。受診の方針については、事故発生後速やかに弁護士に相談することで判断できるでしょう。

日常生活状況報告書の役割を理解する

高次脳機能障害は「周囲の理解が得にくい」と説明したように、本人の訴えが症状の中心となる以上、専門医ですら正確な判断が難しいケースもあります。

こうした症状について説明する際に、追加で提出する日常生活状況報告書は重要な役割を果たします。知能検査の結果に加え、困り事の具体的なエピソードを報告書で提供することで、適切な等級認定や補償が行われる可能性が高まります。

損害賠償請求の手続は弁護士に依頼する

労災申請・認定よりも苦慮しがちなのが、会社に対する損害賠償請求の手続です。

必要な示談交渉や訴訟対応については、弁護士に一任するのが一般的です。

請求額の計算や会社の責任の立証方法等、交渉のための書類作成、会社との直接の話し合い等は、負担だけでなく知識がないと失敗しがちです。

被害者とその家族から相談を受けた弁護士は、上記手続きの一切を代理人として担い、円滑に解決に繋げられます。

おわりに│高次脳機能障害の恐れがある時は労災専門の弁護士に相談を

高次脳機能障害は、外見上分かりにくい一方で、社会生活には少なくない影響のある重い障害です。

労災事故で負ってしまった時は、労災神経で4能力の喪失程度に沿った適正な等級認定を得ることで、手厚い保険給付があります。

その他、会社の法的責任を問うて慰謝料を獲得することが可能です。

適正な補償を得るには、専門医を受診しつつ意見書・日常生活状況報告書を整備し、被害者側で事故状況を丁寧に検証する等、しっかりとした準備が必要です。

勤務先・請負先で重大事故が起きたと分かった段階で、なるべくすぐ弁護士に相談することをおすすめします。

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