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フォークリフトによる労災事故と会社への損害賠償請求

最終更新日 2024年 05月23日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠

フォークリフトによる労災事故と会社への損害賠償請求

勤務中に起こるケガや障害・死亡などの労災事故の原因にはさまざまなものがありますが、フォークリフトを使用して起こる労災事故は非常に多いです。

フォークリフトを使用した労災事故の場合、労災保険だけではなく会社へ損害賠償を請求できる可能性があります。

ここでは、フォークリフトによる労災事故と会社への損害賠償請求について解説します。

フォークリフトによる労災事故の発生状況

フォークリフトは、工場や倉庫、配送センターなどで荷物の運搬や積み下ろしなどの作業で使用される機械です。

フォークリフトはかなりのパワーを有する機械になるため、誤った操作や不注意で大きな事故が起こることも少なくありません。

そこで、フォークリフトによる労災事故の発生状況について解説します。

労災事故の発生状況

フォークリフトの労災事故の発生状況について知る前に、まずは労災事故自体の発生状況についてみていきましょう。

労災事故とは、通勤中や勤務中の事故が原因で労働者が負傷や障害を負うことや、死亡することを指します。

厚生労働省の発表によると、令和4年度の労働災害による死亡者数は774人と過去最少人数になっているそうです。

その反面、休業4日以上の死傷者数は年々増加しており、令和4年は132,355人と過去20年で最多となっています。

事故の型別では転倒・転落の割合が多く、機械によるはさまれ・巻き込まれも増加しています。

とくに製造業では、機械によるはさまれ・巻き込まれや墜落・転落が多くを占めています。

参考:厚生労働省「令和4年の労働災害発生状況を公表」



フォークリフト事故の発生状況

労働災害による死傷者数は増加傾向にあり、その中でもフォークリフト事故による労災は多く、厚生労働省も問題視するほどです。

平成10年から令和元年までの間にフォークリフトによる死傷者数は213人(うち死亡者6人)に及んでいます。

フォークリフトによる事故は倉庫や物流基地などが多く、業種別では製造業や道路貨物運送業、貨物取扱業で発生することが多いとされています。

被災者の区分では、フォークリフト運転士が被災する割合は少なく、7割以上がフォークリフトの周りで作業をしている作業員です。

労働災害発生状況においては、フォークリフトに激突されることが最も多く、続いてはさまれ・巻き込まれ事故が多くなります。

参考:厚生労働省「フォークリフトによる労働災害防止について」


フォークリフトによる労災事故で請求できるもの

フォークリフトによる労災事故で請求できるもの

フォークリフトによる労災事故が起こった場合、労災保険と損害賠償を請求できる可能性があります。

それぞれの請求できる内容について解説します。

労災保険

事業主は人でも従業員を雇う場合、労災保険へ加入することが義務付けられています。

労災保険とは、通勤や業務が原因で労働者が負傷・疾病・障害・死亡した場合に補償を行う制度です。

労災保険が認められれば、治療費や休業補償などの給付を受けられます。

労災の認定は労働基準監督署が行うため、会社の所在地を管轄する労働基準監督署へ申請します。

損害賠償請求

労災事故があった場合、労災保険だけではなく事業主である会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります。

会社に対して損害賠償請求できるのは、会社に安全配慮義務違反がある場合や会社の従業員によるフォークリフトの運転等で事故が起きたような場合です。

損害賠償請求では、労災保険の給付では補填できない損害を請求することが可能です。

損害賠償請求の中で大きな割合を占めるものが「慰謝料」です。

入通院慰謝料や後遺障害慰謝料、死亡慰謝料という3種類の慰謝料があり、労災によって受けた精神的苦痛に対する損害を請求できます。

フォークリフトによる事故が労災事故と認められるケースとは

労災事故として認められれば、労災保険による補償を受けられます。

労災事故として認められる基準や、フォークリフトによる労災事故の具体例についてみていきましょう。

労災の認定基準

そもそも労災には認定基準があり、その基準を満たしていなければ労災事故とは認定されません。

労災の認定を充たす基準には、「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要件があります。

要件①:業務遂行性

業務遂行性とは、労働者の死傷事故が業務中に起こったかどうか判断する要件です。

事業主の管理・支配下にある中で起こった事故であれば、業務遂行性が認められます。

就業中や勤務先外で起こった事故ではなく、始業前後や休憩中の社内や出張先などで起こった事故でも、事業主の支配下であると考えられます。

要件②:業務起因性

業務起因性とは、労働者の死傷事故の原因が業務に関係あるのかどうか判断する要件です。

勤務中の事故であれば、業務起因性が認められることが原則です。

ただし、地震や落雷などの自然災害など業務に無関係なことが原因になる場合、業務起因性は認められません。

また、始業前後や休憩中の事故でも業務と全く関係のないことが原因で事故が起こった場合も業務起因性は認められないといえます。

フォークリフトによる労災事故の具体例

フォークリフトによる事故も「業務遂行性」と「業務起因性」が認められれば、労災事故として扱われます。

具体的なフォークリフトによる労災事故の例は、以下のようなものが挙げられます。

転倒・衝突事故

運転ミスや安全確認不足により、フォークリフトが柱へ衝突してしまう事故や、フォークリフト同士が衝突するような事故があります。

カーブで上手く曲がり切れず、フォークリフトが衝突や転倒する事故は、スピードの出し過ぎが原因になることが多いです。

また、フォークリフトの整備不足により、ハンドルが上手く操作できなくなって転倒・衝突事故が起こることもあります。

挟まれ・巻き込まれ事故

フォークリフトの事故では、フォークリフトの周囲で作業している従業員の挟まれ・巻き込まれ事故が多いです。

フォークリフトの周囲で作業をしている最中に、フォークリフトと壁や荷物の間に挟まれてしまうといった事故になります。

この場合、運転ミスや安全確認不足によって起こることが多い傾向にあります。

【関連記事】
機械への巻き込まれ、挟まれた労災事故の損害賠償請求
 

転落事故

衝突や挟まれ事故ほど多くはありませんが、フォークリフトごと転落してしまう事故が起こることもあります。

ハンドル操作を誤って高所や段差からフォークリフトが落ちてしまうこともあれば、無免許者の運転によって引き起こされることもあるようです。

また、荷物と一緒に従業員もフォークリフトと一緒に乗ってしまい、フォークリフトから転落するというケースもあります。

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墜落・転落による労災事故と会社への損害賠償請求
 

フォークリフトによる労災事故で損害賠償請求できるケース

フォークリフトによる労災事故で損害賠償請求できるケース

フォークリフトによる事故が労働災害と認められた場合、労災保険だけではなく損害賠償を請求できる可能性があります。

どのような場合に会社へ損害賠償を請求できるのでしょうか?

損害賠償請求が認められるケース

損害賠償請求とは、契約違反や債務不履行によって生じた損害に対して金銭的な賠償を求めることです。

フォークリフトの労災事故で会社へ損害賠償請求できるケースとは、「安全配慮義務違反」「使用者責任」「工作物責任」のいずれかがあると認められた場合です。

安全配慮義務違反

使用者には、労働者が安全に労働できるように配慮すべき義務が法律によって定められています(労働契約法第5条)。

そのため、労働者の身に危険が及ぶ可能性があることを知っていながら対策を講じなかった場合、安全配慮義務違反として会社へ損害賠償を求めることができます。

フォークリフトの労災事故で安全配慮義務違反として会社へ損害賠償請求が認められるケースとして、以下のような例が挙げられます。
 
 
・フォークリフトの定期点検を行っていなかった
・作業場が狭くてフォークリフトで作業するには危険を伴うことが分かっていた
・フォークリフトを使用する免許を持っていないと分かっている従業員にフォークリフトの運転を命じていた
・フォークリフトで安全に作業するための指導を行っていない
・段差が多い作業場でフォークリフトを動かすことが危険だと分かっていながら作業場の改善を行わなかった
 

使用者責任

会社には、会社が雇用する従業員が第三者に損害を発生させた場合、加害者の従業員と連帯して会社も損害賠償の責任を負う「使用者責任」という義務があります(民法第715条)。

他の従業員の過失によってフォークリフト事故が起こった場合、加害者の従業員と使用者責任のある会社に対して損害賠償を請求することができます。

フォークリフトの労災事故で使用者責任として会社へ損害賠償請求が認められるケースでは、以下のような例が挙げられます。
 
・同僚がフォークリフトの操作を誤り、壁とフォークリフトに挟まれてケガをした。
・操縦者の確認不足で作業中に荷物と一緒にフォークリフトが動かされてしまい、転落事故が起こった
・操縦者の安全確認不足でフォークリフトに後ろから追突された
・作業場の不備を改善するように命じられていたにも関わらず、改善しないままフォークリフト作業を続行して、フォークリフトの転倒事故に巻き込まれた

 

工作物責任

倉庫や工場などの工作物の所有者には、工作物の設置や保存において安全性が保たれるようにする義務があり、工作物の瑕疵によって他人が損害を被れば「工作物責任」として工作物の所有者は賠償責任を負うことになります(民法第717条)。

フォークリフトの労災事故で工作物責任として会社へ損害賠償請求が認められるケースでは、以下のような例が挙げられます。

・会社の工場内でフォークリフトの操作をしていると、床が突然崩れ落ちてフォークリフトが墜落した
・荷物を積み上げている棚が崩壊し、フォークリフトごと下敷きになった
 

損害賠償請求が認められないケース

フォークリフトによる事故の損害賠償請求を会社に対して行っても、全てのケースで請求が認められるわけではありません。

以下のようなケースの場合、損害賠償請求が認められない可能性が高いといえます。

・無免許で上司にも止められていたにも関わらず、こっそりフォークリフトを運転して事故を起こした
・フォークリフトでの作業を禁止されている場所だったが、業務の効率を上げようと無断でフォークリフトによる作業をして事故を起こした
・休憩中に同僚とふざけてフォークリフトで遊んでいてケガをした
 

フォークリフトによる労災事故で会社へ損害賠償請求をする場合の流れ

フォークリフトによる労災事故で会社へ損害賠償請求をする場合、以下のような流れに沿って請求を行います。

治療~症状固定

労災事故に遭って負傷した場合、まずはケガの治療を受けて療養に努めなくてはなりません。

休業が必要な場合は、仕事を休んでいる期間の治療費や給与が労災保険で補償されます。

医師から症状固定の診断を受ければ、治療が終了することになります。

労災事故の治療が終了後、後部った損害を労災保険や損害賠償として請求を行います。

後遺障害が残る場合には、この時点で後遺障害等級認定を申請します。

【関連記事】
【完全版】後遺障害認定の落とし穴と対策法! 労働災害で適正な補償を受けるために
 

損害賠償請求

会社に対し、損害賠償請求を行います。

まずは内容証明郵便を会社宛に送付し、話し合いでの解決を目指します。

ご自身で会社と交渉することもできますが、弁護士に依頼すれば代理人として代わりに交渉を任せることが可能です。

合意書を作成する

話し合いで双方が納得した場合、話し合いの内容を書面にまとめた「合意書」もしくは「示談書」を作成しましょう。

口約束だけでは後からトラブルになる可能性もあるため、書面に残しておくことが大切です。

双方が書面へ署名すれば、示談が成立です。

【関連記事】
労災事故が起きたときの示談交渉の基本・解決までの流れ
 

話し合いが決裂すれば裁判へ

話し合いで合意が得られない場合は、裁判へ進むことになります。

労働審判や民事訴訟で申立てを行い、裁判所に介入してもらうことで決着を図ります。

労働審判は訴訟に比べて短期間で解決を目指す方法であり、3回の期日で解決することが一般的です。

争点が複数ある複雑なケースの場合は、労働審判ではなく民事訴訟が向いているといえます。

【関連記事】
労災の裁判で得する人、損する人の違いとは?
 

まとめ

フォークリフトによる労災事故は非常に多いため、フォークリフトによる作業への注意喚起をしっかり行っている会社も多いと思います。

しかし、どのような場面で事故が起こるかは予想できません。

フォークリフトの労災事故が起こった場合には、労災保険だけではなく会社へ損害賠償を請求できる可能性があります。

労災保険だけでは補填しきれない部分も損害賠償で請求できるため、まずは損害賠償請求できるかどうか弁護士に相談することから始めてみてください。

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