労働災害SOS|みらい総合法律事務所

労災事故の損害賠償を弁護士に相談・依頼するメリット&デメリット

最終更新日 2024年 02月20日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠

労災事故の損害賠償を弁護士に相談・依頼するメリット&デメリット 労災事故に遭った場合、補償を100%獲得するため、適切な対応する必要があります。

多くの場合、初動段階で既に何をすればいいのか分からず、相談先も思い浮かばないのが現実ではないでしょうか。

労災事故の対応にほんの少しでも不安を覚えるなら、弁護士に相談すると安心です。単に労働者の助言役として精神・知識の面で支えてくれるだけではありません。

本記事で紹介する3つのメリットが、数十万円から数百万円に及ぶ獲得額の差に繋がることもあります。労災事故対応の基本となる知識を前提に、順に解説します。
 

労災事故の相談・依頼のための基礎知識

労災事故について弁護士に相談・依頼するメリットを理解するため、

まず労災の定義・考えられる会社の対応を押さえる必要があります。順に基礎知識を整理しましょう。

労働災害とは

労働災害とは、業務上の事由や通勤により、労働者の負傷・疾病・障害を負ったり、死亡したりする場合を言います。

例として、業務に使用する機械で怪我をする、夏場の作業で熱中症になる、過重労働やパワハラによって精神疾患を負う等の場合が挙げられます。

業務災害と通勤災害

労働災害には「業務災害」と「通勤災害」の2種類があります。いずれかの要件を満たすことが、申請による労災認定、ひいては労災保険給付の前提条件です。

それぞれの要件は、次のように定められています。

 
▼業務災害の要件=下記2つのどちらも認められること
・業務遂行性:労働者が使用者の支配下にある状態
・業務起因性:業務と災害との間の相当因果関係
 
▼通勤災害の要件=下記のいずれかの移動を合理的な経路・方法で行うこと ・住居と就業場所の間の往復
・就業場所からの他の就業場所への移動
・単身赴任先住居と帰省先重都との間の移動
 

過労死・過労自殺も労働災害になる

長時間労働が原因の過労死や過労自殺も、労災事故として認められます。

▼過労死の認定基準(以下いずれか)
・長期間の過重労働
・短期間の過重労働
・異常な出来事

参考:脳・心臓疾患の労災認定基準(令和3年9月15日以降)


▼過労自殺の認定基準(全て満たす必要あり)
・認定基準の対象となる精神障害である
・業務による強い心理的負荷が認められる
・労働者側の要因による発病でない
・「故意の欠如の推定」がある

参考:精神障害の労災認定基準

会社が労災保険給付に協力しない場合がある

労災事故に遭った時は、まず迅速に労災保険給付を確保しなくてはなりません。

問題になるのは、保険給付のため必要な請求書を提出したくても、会社が嫌がって所定欄へのサインに協力してくれないケースです。

労働基準監督署に事故発生が伝われば、保険料が上がったり、保険料未納による滞納処分を受けたりする恐れがあるためです。

会社が労災保険給付に協力してくれない時は、理由を探り、なるべく早く協力姿勢になってもらう必要があります。

基本的には交渉で解決を試みますが、当事者だけだと揉めがちです。自力対応を貫こうとせず、早々に経験豊富な弁護士にアドバイスしてもらいましょう。

弁護士のメリット1:労災保険給付のための専門的支援

メリット労災保険給付のための専門的支援 労災事故発生後の補償は複雑で、労働者やその遺族だけで対応すると、補償の取りこぼしが生じることがあります。

一方で弁護士は、労災認定や損害賠償請求の手続きに精通しており、適正額の補償を得るための専門的支援が得意です。

また、経験豊富な弁護士は労災事故の解決策を提案し、被害者に適切なアドバイスを提供できます。

労災保険の内容が分かる・手続きできる

労災保険の仕組みは複雑で、負傷状況に応じて複数の請求を組み合わせる必要があります。

給付の種類が細分化しており、それぞれに請求手続のやり方や給付条件が定められているのです。

労災対応に手慣れている弁護士は、事故発生と共にもらえる保険給付の種類につき、下記から素早く判断できます。

給付を得るための手続きも、書式や過去の例に基づき、ミスやトラブルがないようにサポートできます。

 
・療養給付:診察や薬剤投与等にかかる費用
・休業給付:仕事を休んだ日の収入補償
・障害補償:後遺障害(1級~14級)が残った時の補償
・傷病年金:治療期間1年6か月超かつ重度障害(1級~3級)と認定された時の補償
・介護補償:重度障害(1級の全て・2級の一部)と認定された時の介護給付
・遺族補償:労働災害で死亡した場合に、遺族に支給される一時金や年金
・葬祭料:労働災害で死亡した場合の、葬祭費用の補償
・二次健康診断等給付:一次健康診断で異常所見が認められた時の再検査料に対する補償
 

適正な後遺障害等級認定が得られる

労災事故で後遺障害を負った場合、第1級から第14級までのいずれかに認定されてから、対応する給付(障害補償等)を得ます。

給付で得られる金額は、等級によって大きく変わります。問題は、等級認定の判断材料が医師作成の意見書等といった書類に限られるため、症状の実態に比べて低い等級に認定される場合もある点です。

労災事故に強い弁護士は、実際にどんな症状があるのか確かめた上で、適正な障害認定を得るための書類及び記載内容を判断できます。

判断できた時は、実際に認定に必要な材料を揃えるため、今後の受診方法等についてアドバイスすることも可能です。
既に低い後遺障害等級に認定されている場合は、異議申立てについても全面的に支援できます。
 
【例】書類棚に右手の人差し指を強く挟まれ、指に変形や曲げにくさが残った場合
→認定される可能性がある後遺障害等級:下記のいずれか
   
▼14級7号の場合(手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの)
労災保険の障害補償:給付基礎日額56日分+算定基礎日額56日+8万円(一時金)
慰謝料の基準:110万円
   
▼12級9号の場合(一手の示指の用を廃したもの)
労災保険の障害補償:給付基礎日額156日分+算定基礎日額156日分+20万円(一時金)
慰謝料の基準:290万円
 
【関連記事】 ・労災で適切に後遺障害等級が認定される人、されない人の違いとは
 

弁護士のメリット2:会社に対する損害賠償請求の強さ

メリット会社に対する損害賠償請求の強さ 会社に法的責任がある時の損害賠償請求は、労働者やその家族・遺族等で対応すると難航しがちです。

請求に失敗した場合、時に3千万円近くにも及ぶ慰謝料(精神的損害に対する補償)が全くもらえません。会社と揉める可能性は十分想定できますが、弁護士なら強い交渉力で解決可能です。

損害賠償請求に欠かせない法的責任の主張・立証とは

労災事故の損害賠償請求の根拠となる法的責任とは、民法上の債務不履行責任(安全配慮義務違反)や不法行為責任です。

請求する時は必ず責任を主張し、それだけなく、具体的な証拠も提示しなくてはなりません。
弁護士は、労働者の立場使用者の法的責任の成立要件を具体的に主張し、客観的な証拠を揃えて証明することで、労災保険給付以外にも損害賠償請求を可能にするためのサポートを行います。

▼安全配慮義務違反とは
労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務を指します(労働契約法第5条)。

安全対策やその教育を怠ったり、人員配置を最適化させずに過重労働をさせたりした時は、必要な配慮がなかったとして損害賠償しなくてはなりません。

▼不法行為責任とは
故意または過失により、他人の権利または法律上保護される利益を侵害することを指します(民法第709条)。

少なくとも業務の危険性を認識しており、事故が起きる可能性を知りながら対策しなかった場合に生じます。
 
【例】高所作業中に足を滑らせて墜落、死亡した労働者につき、当時の安全帯が一本つりだったと判明した時
令和4年2月1日施行の改正労働安全衛生法では、6.75メートルを超える高い場所で作業する場合、一本つりではなくフルハーネス型安全帯の使用が義務付けられています。

事故現場の高さが上記基準に達していた場合、安全配慮義務違反による債務不履行責任が認められると考えられます。亡くなった被害者が一家の支柱だったとすると、会社に請求すべき慰謝料の相場は2,800万円です。
 

労働者や家族が自力で交渉するか、弁護士に任せるか

会社に損害賠償請求すべきケースでは、労働者やその家族・遺族が自分で示談交渉にあたるより、始めから弁護士に任せた方がはるかに良い結果になりがちです。

会社から事故発生状況について認識と違う主張が行われたり、労働者の過失や既往症を指摘されたりした時、交渉に不慣れだと反論に詰まってしまうでしょう。

弁護士なら、あらかじめ業務指示や労働時間等を示す証拠を用意し、主張を補強できます。弁護士が代理人であるだけでも、支払いについて強いプレッシャーを会社に与えられます。
 
【関連記事】 ・労災事故が起きたときの示談交渉の基本・解決までの流れ
 

弁護士のメリット3:労働者の権利保護

メリット労働者の権利保護 労災事故に遭って療養する労働者に対しては、酷い会社だと、雇用契約上でも不当な扱いをされることがあります。

解雇や退職勧奨による自主退職に追い込まれると、労災補償でも不利益な扱いを受けかねません。不当待遇の心配がある時は、弁護士への相談・依頼で労働者の権利を守れます。

労災による休業は解雇理由にならない

労災事故によって休業した場合、使用者は労働者を解雇できません(解雇制限/労働基準法第19条1項)。上記の解雇制限の期間は、業務災害で療養のために休業する期間とその後の30日間に及びます。

もっとも、正社員や長期契約を前提とする雇用関係で下記の事情がある時は、解雇制限の例外となります。

個別の事例が不当解雇にあたるか否かは、状況を整理した上で、弁護士に判断を委ねるのが無難です。
 
・通勤災害で休業し、かつ、職場復帰できない等の合理的理由がある場合
・治療期間が3年を超え、かつ、傷病補償年金を受給している場合
・治療期間が3年を超え、かつ、会社が平均賃金の1,200日分の打切補償を支払った場合
・天災事変その他やむを得ない事由のため事業継続が不可能となり、行政官庁の認定を得た場合
 

退職すると労災補償で不利になるリスクがある

退職しても労災保険給付の権利は守られますが(労基法第83条・労働者災害補償保険法第12条の5第1項)、権利行使自体が難しくなるリスクがあります。

会社に対する損害賠償請求でも、同じく請求のための対応が困難になります。いったん辞めてしまうと、保険給付のための協力や情報提供が得にくくなり、証拠収集のための立ち入りに至っては全く許されなくなるためです。
加えて、休業損害、後遺障害あるいは死亡による逸失利益(将来分の収入にあたる損害)の計算にも支障をきたします。計算のベースとなる賃金の支払いがなくなるためです。

労災補償が未だ済んでいないようなら、圧力に負けて退職・解雇に応じるのは避けましょう。
一方で、同僚や上司との関係が気まずくなり、退職を検討する必要があるのも事実です。退職に関する葛藤はあらかじめ弁護士に相談しておけば、現実的なアドバイスをもらいつつ、精神的サポートまで得られるはずです。

弁護士のデメリット:労災対応のための費用

デメリット労災対応のための費用 弁護士に相談・依頼する場合、費用発生はどうしても避けられません。

多くの人が相談せずに自力で対応しようとするのは「弁護士費用は高い・労基署に無料相談しても同じ」「自分で対応すれば多額の節約に繋がる」等と考えるためです。

あらかじめ弁護士報酬の相場を把握しておき、労基署との対応力の違いも理解しておけば、費用対効果を意識して適切な判断ができるようになります。

労災事故対応の弁護士費用の相場・目安

労災事故に関する弁護士費用は、相談時間や依頼内容、事案の難易度によって異なります。

あくまでも一般的には、下記が費用相場とされます。
 
(当事務所の費用のルールではなく、一般的に定め方となります)
・相談料:0円から6千円/1時間
・着手金:10万円から30万円(訴訟の場合は増額となります)
・成功報酬:経済的利益の10%から20%程度
・日当:出廷1回につき1万円から3万円程度(別に交通費・宿泊費がかかる場合あり)
・実費:内容証明郵便の配達料、訴訟提起のための書類作成費用等
 

相談するなら弁護士か、労基署か

労働問題については、各地の労働局・労働基準監督署で無料相談できます。

ただし、労働者の味方になって権利行使を支援してくれるわけではありません。

労働関連法違反について同じく法令で定められる処分が行えるだけで、二者間・三者間で起こる個別のトラブルには介入できないのです。

損害賠償請求は、労働者自身もしくは委任された代理人で、権利を行使するための手続きを踏まなくてはなりません。

代理人として働けるのは、訴訟代理権と法律の知識を持つ弁護士です。会社の不正を告発したいなら労基署での相談が適切ですが、現実的に補償を求めるなら弁護士相談が必要と覚えておきましょう。

弁護士費用は会社に請求できる可能性がある

会社が損害賠償責任を負うケースでは、慰謝料等と共に、弁護士費用も会社に請求できます。その結果、実質的な負担がほぼゼロとなる場合があるのです。

費用の悩みについては、最初の弁護士相談でアドバイスをもらえるのが一般的です。

労災事故に強い弁護士の選び方

弁護士なら誰でも労災事故に対応できるとは言えず、経験・スキルに個人差や事務所による差があります。

相談者との相性やヒアリング力も、相談先によって変わると言わざるを得ません。

適正な補償が得られる見込みの高い、労働者の強力な味方となってくれる弁護士を選ぶ時のポイントは、次の通りです。

1.労働者側の弁護士として実績がある
……最低でも、労災保険の仕組みや慰謝料基準等について知識がある

2.労災保険の後遺障害等級認定に詳しい
……大まかな医学的知識があり、提出する医師の意見書・診断書の記述を完備する目的で、症状から受診方針や検査についてアドバイスしてもらえる

3.相談段階から親身になってくれる
……身体的、経済的、あるいは将来に対する不安を理解してくれる

間違えやすいのは、会社の代理人として分野内の実績を積んでいる弁護士に相談するケースです。

その場合、労災保険や障害認定について知識が薄く、十分なサポートが得られない恐れがあります。

事務所のホームページ上で発信している情報を見誤らず、労働者と使用者のどちら側が得意なのか的確に判断しましょう。

おわりに│労災事故を弁護士に依頼するメリットは費用負担より大きい

労災事故を弁護士に依頼するメリットは、補償の知識と交渉力を活用し、労働者の権利を最低限守りながら補償を最大化できることです。

相談料や弁護士報酬等の費用負担は発生しますが、後遺障害等級認定の適正化等により、負担をしのぐ数十万円から数百万円の増額に繋がる期待があります。

▼弁護士相談・依頼で得られるメリット
・労災保険給付の知識を活かしたサポート
・損害賠償請求での高い交渉力
・不当待遇からの保護
 

労災事故に強い弁護士の見極めでは、無料相談の活用をおすすめします。

ひとりで、あるいは家庭内だけで問題を抱えることなく、まずは気軽に弁護士のアドバイスを求めてみましょう。

みらい総合法律事務所では、労災事故の死亡事故と後遺障害事案について「会社に対する損害賠償請求」についてご相談をお受けしています。

【関連記事】 ・労災で弁護士に相談すべき5つの理由
 
  • 労働災害の損害賠償手続
  • 労働災害はお一人で悩まず弁護士へご相談ください
労働災害の弁護士相談はお気軽に
労働災害でお悩みの方は今すぐご連絡を!
労災に悩み方へお送りする小冊子ご案内