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墜落・転落による労災事故と会社への損害賠償請求

最終更新日 2024年 05月09日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠

墜落・転落による労災事故と会社への損害賠償請求

業務中の墜落・転落による負傷や死亡は、労災事故の中でも発生件数の多い事故です。

事故が起こる状況はさまざまですが、とくに建設現場で起こりやすいとされています。

墜落・転落による労災事故が発生した場合、労災保険の給付以外にも、会社へ損害賠償請求することも併せて検討しましょう。

ここでは、墜落・転落による労災事故と会社への損害賠償請求について解説します。


労災の原因に多い墜落・転落とは

労働災害とは、業務に関することや通勤中に労働者が負傷や疾病、障害、死亡することを指します。

労働災害の原因は多種多様ですが、墜落・転倒は労働災害の中でも多い事故原因です。

労災事故で起こりやすい墜落・転落とはどのようなものなのでしょうか?

墜落・転落による労災事故の割合

厚生労働省の統計によると、令和4年に労災事故による死亡者数は774人、休業4日以上の死傷者数は132,355人となり、死傷者数は増加傾向にあります。

労災事故による死亡者の事故原因でもっとも多いものは墜落・転落で、全体の3割を占めています。

また、休業4日以上の死傷者の場合は、転倒が事故原因1位で26.7%を占め、墜落・転落は3位の15.6%を占めています。

このことから、労災事故で墜落・転落が起こる割合は高く、命に関わる危険な事故であることが分かります。

参考:厚生労働省「令和4年労働災害発生状況」

労災事故に多い墜落・転落の具体例

労災事故の原因として墜落・転落は多いですが、具体的な例についてみていきましょう。

墜落は「身体が宙に浮いて落下すること」、転落は「階段や板などから落ちること」を指します。

【墜落の具体例】
・高所での作業中に足場が崩れて落下した
・足元の床が崩れて墜落した
・機械が誤作動を起こし、リフトごと墜落した
 
【転落の具体例】
・足場が不安定だったため、作業中にバランスを崩して転落した
・脚立を降りる時に、脚立のバランスが崩れて転落した
・手すりの不備によって階段から転落した
 
墜落・転落が起こる状況は多様ですが、はしごや脚立、屋根、足場、階段などからの墜落・転落が起こることが多いでしょう。

墜落・転落の労災認定はどのような場合に認められるか?

墜落・転落が労災事故として認められれば、労災保険の給付を受けられます。

労災事故は労働基準監督署によって判断され、一定の要件を満たす必要があります。

労災事故として認められるためには、「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要因が認められなければなりません。

業務遂行性

業務遂行性とは、労働者が労働契約に基づいて使用者の支配下・管理下にある状態を指します。

墜落・転落事故が使用者の支配ないし管理下にある状態で起こったのであれば、業務遂行性が認められます。

業務中に事故が起こった場合だけではなく、出張や外回り中に起こった事故なども使用者の支配下にあるため業務遂行性が認められます。

業務起因性

業務起因性とは、ケガや病気などが業務に起因して生じたものであることを指します。

墜落・転落によるケガや病気、障害などが業務を原因として発生した場合、業務起因性が認められます。

業務に関する作業中や移動中に発生した墜落・転落事故であれば、業務起因性と業務遂行性のどちらも認められると考えられます。

墜落・転落による労災事故は会社へ損害賠償請求できるのか?

墜落・転落による労災事故が起こった場合、会社へ損害賠償は請求できるのでしょうか?

ここからは、労災事故の損害賠償について解説します。

労災事故は損害賠償請求できる

墜落・転落による労災事故があった場合、労災保険の給付だけではなく、会社に対して損害賠償を請求することが可能です。

労災保険による補償も受けられますが、給付の対象外になる部分もあります。

労災保険で補償されないものには、精神的損害に対する慰謝料や治療費・休業損害等の不足分、後遺障害・死亡による逸失利益の不足分などが挙げられます。

こうした労災保険では補填しきれない損害は、会社に対して損害賠償として請求することが可能です。


【関連記事】
墜落事故による労働災害(労災)の慰謝料は?
 

損害賠償請求の法的根拠について

墜落・転落は労働者の不注意とされることもありますが、全てが労働者の責任になるわけではありません。

会社には「安全配慮義務」と「使用者責任」というものがあり、これらの義務を怠っていたことが認められれば損害賠償を請求できます。

また、墜落・転落の場合は「工作物責任」を理由に損害賠償を請求できる可能性があります。

安全配慮義務

安全配慮義務とは、労働者が健康で安全に労働できるように使用者が配慮すべき義務です(労働契約法第5条)。

労働者に身の危険が及ぶことを予測できたにも関わらず対策を講じなかった場合などに安全配慮義務が認められます。

墜落・転落の場合であれば、以下のようなケースで安全配慮義務違反があったとして会社へ損害賠償を請求できます。

・作業する足場に不備があるにも関わらず作業を続行させた
・安全器具のメンテナンスを十分に行っていなかった
・はしごが古く、壊れていた
・安全に作業するための指導を行っていなかった
・作業に慣れない新人に一人で高所の作業を任せた
 

使用者責任

使用者責任とは、会社が雇用する労働者が第三者に損害を発生させた場合、加害者である労働者と連帯して会社も被害者に対して損害賠償の責任を負うという義務です(民法第715条)。

業務中に他の同僚の過失によって墜落・転落が起こった場合、加害者となる従業員と会社に対して損害賠償請求することが可能です。

墜落・転落事故の場合であれば、以下のようなケースで会社に使用者責任が問われます。

・従業員が機械の操作を誤り、リフトとともに落下した。
・作業場で他の従業員にぶつかられ、墜落した。
・足場の不備を改善するように命じられていたことを上司が無視して改善しないまま作業を続行したため、作業時に転倒した
 

工作物責任

工作物責任とは、土地の工作物の瑕疵によって他人に損害を与えた場合に、工作物の占有者・所有者が負う賠償責任を指します(民法第717条)。

工作物の占有者・所有者は、工作物の設置や保存において安全性に欠陥がないよう、損害が発生しないように注意しならない義務を負っています。

墜落・転落事故の場合であれば、以下のようなケースで会社に工作物責任が問われます。


・工場現場の足場が倒壊した
・工事作業中のビルの床が崩れ落ちて墜落した
 

墜落・転落による事故で会社へ損害賠償請求できないケースとは

墜落・転落による事故で会社へ損害賠償請求できないケース

業務中の墜落・転落による事故で負傷などが起これば、全てが会社へ損害賠償請求できるというわけではありません。

次のようなケースでは、損害賠償請求をしても認められない可能性があります。

会社に法的責任がない

墜落・転落事故で会社に損害賠償を請求できるケースとは、会社が損害を賠償しなければならない法的根拠がある場合です。

前項で解説した「安全配慮義務」や「使用者責任」、「工作物責任」が欠けていた場合は損害賠償を請求できますが、会社側が安全配慮義務を怠っていなかった場合や、使用者責任がないような場合には損害賠償を請求できません。

会社へ損害賠償請求ができないような例として、次のようなケースが挙げられます。

・機械の操作指導やメンテナンスが十分に行われていた
・簡単な作業だったが、被害者自身の不注意で墜落事故が起こった
・会社からの帰宅中の転倒事故だったものの、友人と居酒屋に寄り道して酔っぱらって転倒した
 

時効が成立している

墜落・転落事故による損害賠償請求を会社へ行う法的根拠は、使用者責任・工作物責任が「不法行為」、安全配慮義務違反が「債務不履行」というものに該当します。

不法行為と債務不履行に基づく損害賠償請求には、時効が設けられているので注意が必要です。

損害賠償請求権の消滅時効期間を経過すれば、損害賠償を請求しても認められません。

人身事故に関するそれぞれの消滅時効期間は、以下の通りです。

【不法行為】
1.損害および加害者を知ったときから5年間権利を行使しない場合
2.不法行為があったときから20年間権利を行使しない場合
上記のうち、いずれか早い方が採用されます。
 
【債務不履行】
債権者が権利を行使できることを知ったときから5年間行使しない場合
権利を行使することができるときから10年間行使しない場合
上記のうち、いずれか早い方が採用されます。
 

墜落・転落による労災事故で会社へ損害賠償を請求する方法

墜落・転落による労災事故で会社へ損害賠償を請求する方法は、「交渉」「労働審判」「訴訟」の3種類があります。

それぞれの請求方法について解説します。

交渉

会社へ損害賠償請求を行う最初の方法として、裁判外で交渉するという方法があります。

会社が交渉に応じ、双方が金額や条件に合意できれば法的手続きを行わずに済みます。

しかし、会社が労働者の請求通りに損害賠償を支払う可能性は低いでしょう。

会社と対等に交渉を進めるためには、弁護士を代理人に立てることが有効です。

弁護士は妥当な請求額を算出し、依頼人の意見を主張しながら交渉を進めます。


【関連記事】
労災事故が起きたときの示談交渉の基本・解決までの流れ
 

労働審判

会社との交渉で合意に至らない場合は、労働審判という手続きへ進むという選択肢があります。

労働審判とは、労働者と事業主の間に起こった労働トラブルを解決するための裁判手続きです。

労働裁判では、裁判官1名と労働審判員2名の計3名で構成される労働審判委員会が解決案を斡旋し、解決を図ります。

労働審判の期日は原則3回以内になるため、訴訟よりも迅速な解決が期待できます。

訴訟

労働審判の内容に不服があった場合は、最終手段として損害賠償請求訴訟を提起することになります。

訴訟では、お互いが主張を裏付ける証拠を裁判所へ提出し、主張が認められるように裁判所を説得します。

通常、期日は1ヵ月に1回程度の設定です。

そして、各期日において原告および被告が交互に主張を記載した書面の提出や陳述を行うため、判決が出るまでに時間がかかります。

判決までに和解を提案されることもありますが、判決が下されれば上訴しない限りは判決内容に従うことになります。

墜落・転落による労災事故で損害賠償請求を行うためのポイント

墜落・転落による労災事故で会社へ損害賠償請求を行う場合、主張が認められるように準備をすることが大切です。

墜落・転落による労災事故の損害賠償を請求する際には、以下のポイントを押さえておきましょう。

損害賠償請求のタイミング

労災の損害賠償請求ができるようになるタイミングは、被災した労働者の損害賠償額が確定した時です。

労災保険の給付が行われれば、損害を二重で填補することになります。

そのため、労災保険の給付額の確定後、損害賠償額から労災保険の給付額を指しい引いた金額を会社に対して請求します。

損害賠償額には慰謝料という精神的な損害に対する賠償も含まれるため、労働者が自身で損害賠償の請求額を算定することは困難です。

損害賠償の請求額に関しては、弁護士に相談することを推奨します。

調査と証拠収集

労災認定と労災の損害賠償請求では、初期段階に十分な調査と証拠収集を行うことが大切です。

証拠が不十分な場合、適切な損害賠償額が認められないだけではなく、損害賠償請求自体が認められない可能性があります。

事故から時間が経ってしまうと調査や証拠収集が困難になるため、事故からできるだけ早い段階で動き始めることが重要なポイントになってくるといえます。

弁護士に依頼すれば、交渉や裁判で有利になる法的な証拠収集が可能です。

労災に精通した弁護士への依頼

労災事故の損害賠償請求を含め、労災に関するトラブルは労働者自身で解決することは知識不足や手間、会社という組織を相手にするという点から非常に難しいものといえます。

そのため、労災に関するトラブルは、弁護士に依頼することが一般的です。

ただし、弁護士と一言でいっても誰に依頼しても同じというわけではありません。

弁護士にも得意な分野や専門的に取り扱っている分野などが異なります。

とくに労災は複雑なトラブルであることが多いため、知識と経験のある弁護士に依頼すべきといえます。

労災事故に関するトラブルの解決実績や取り扱い経験の豊富な弁護士に相談し、損害賠償請求や労災認定のサポートを受けると良いでしょう。

まとめ

墜落・転落による労災事故があった場合、労災保険の給付では補いきれない部分を会社へ損害賠償として請求できる可能性があります。

会社へ損害賠償請求を行う場合、会社と交渉するために調査や証拠集めが必要になります。

労災事故に詳しい弁護士に相談すれば、交渉や訴訟になっても安心して任せることができ、労働者は負傷の治癒に専念できるでしょう。

労災事故では障害が残るような場合も多いため、自身で判断する前に弁護士へご相談ください。

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