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労災事故の損害賠償請求でもらえる金額の計算方法と相場・請求方法

最終更新日 2024年 02月20日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠

労災事故の損害賠償請求でもらえる金額の計算方法と相場・請求方法

労災事故による損害賠償請求の相場は、逸失利益・慰謝料等が高額化すると数千万円以上となりがちです。

ケース別の賠償額の目安は、計算方法を踏まえて算定する必要があります。実際に補償してもらおうとするなら、会社に対する請求方法も理解し、どのような対応が必要なのかあらかじめ検討しておかなくてはなりません。

本記事で労災事故における損害賠償請求の基礎知識を整理しておくことで、万一の時、初動から適切な対応がとれるようになるでしょう。

▼本記事で解説する内容
・労災事故について会社に損害賠償請求する時、金額はどう計算するのか
・労災事故の損害賠償金の相場(治療のみ・後遺障害時・死亡時)
・労災による損害賠償請求の方法
・被災者ら家族が注意すべきポイント
 

労災で損害賠償請求すべき額の計算方法

労災で損害賠償請求すべき額の計算方法 労災事故で損害賠償請求の手続を行うべき金額は、手順を踏んで計算します。

まず、事故で発生した損害額につき、財産・精神の両面で見て各費目を合算します。さらに労災保険給付や見舞金等の既払分を控除したのが、最終的な損害賠償の金額、つまり会社に請求すべき額となります。

但し、被害全体の金額について労働者側の過失・素因がある場合には、それに応じた割合で減じられることになります。

▼労災事故の損害賠償額を計算する時の方法
1.被災者に支払われるべき額:全ての損害の合計(会社に対して請求する額) -(過失相殺 、素因減額)
2.最終的な損害賠償額: ① - 損益相殺
 

労災事故の損害の種類(損害賠償金の内訳)

労災事故から治療により回復した、後遺障害を負った、あるいは死亡した場合には、その結果までにさまざまな種類の損害が生じます。

損害の種類としては下記のようなものが挙げられますが、損害額全体の大半を占めるのは慰謝料・逸失利益の部分です。

治療費等

入院・通院によって医療機関に支払うことになる、財産的損害の一種です。

医療費、入院料、入通院時の付添費用、義肢・義足代等が含まれます。
これらについては、労災保険の療養給付と労働福祉事業支給で全額補償されます。

休業損害

事故によって余儀なく生じた休業期間中につき、そのあいだ得られなかった収入を指す、財産的損害の一種です。

労災保険では、休業4日目以降につき給付基礎日額の60%相当に加え、
特別支給分としてプラス20%相当(合計で給付基礎日額の80%)が補償されます。

慰謝料

入通院・後遺障害・死亡について負う苦痛につき、賠償しようとする時の損害の費目を指します。

数値での評価が難しい精神的損害です。

相場は死亡または後遺障害のケースで最大2800万円程度と大きくなりますが、
労災保険では補償されません。したがって、会社に全額支払いを求めることになります。

【関連記事】
労災事故の慰謝料の相場と慰謝料を増額する方法
 

▼後遺障害慰謝料の基準(弁護士が対応する場合)

後遺障害等級 慰謝料の基準
第1級 2,800万円
第2級 2,370万円
第3級 1,990万円
第4級 1,670万円
第5級 1,400万円
第6級 1,180万円
第7級 1,000万円
第8級 830万円
第9級 690万円
第10級 550万円
第11級 420万円
第12級 290万円
第13級 180万円
第14級 110万円

▼死亡慰謝料の基準(弁護士が対応する場合)


被災者の役割 慰謝料の基準
一家の支柱 2,800万円
母親、配偶者 2,500万円
その他 2,000万円~2,500万円

逸失利益

後遺障害や死亡に伴って失われた将来分の労働収入を指す、財産的損害として最大規模になるものです。

原則67歳までを就労可能年数とし、将来受け取る金銭の前払いによる利益を加味するための「中間利息控除率」を考慮して計算します。

労災保険では障害給付・遺族給付等が対応し、年金の支給もありますが、それだけで十分かどうかはケースバイケースです。

▼後遺障害逸失利益の計算方法
基礎収入 × 労働能力喪失率(%)× 中間利息控除率に対応するライプニッツ係数
 
▼死亡逸失利益の計算方法
基礎収入 ×(100-生活費控除率※)% × 中間利息控除率に対応するライプニッツ係数
※被災者本人の生活費支出が不要になる点を考慮
 
【関連記事】
労災で適切に後遺障害等級が認定される人、されない人の違いとは
 

その他の費目

上記以外にも、後遺障害の場合は介護費用や住宅改造費、死亡時には葬儀費用が生じます。

これらについても労災保険で対応する給付があるものの、一定の条件や上限額設定があり、不足分は会社に対する損害賠償請求で求めます。

過失相殺による減額

過失相殺による減額 労災における過失相殺とは、労働者の過失が認められる際、損害について支払われるべき額を過失の度合いに応じて減額する考え方です。

根拠となるのは、労働安全衛生法規則で定められる業務中の「自己安全義務」や、健康診断を受診する義務等を含む「自己保健義務」があります。

労災事故の過失相殺は、基本的に慎重に行うべきと考えられます。次のような場合には、労働者側の過失による減額はないか、通常の過失割合よりも小さく見積もられます。

・労働者の過失と損害との間に相当因果関係がない
・労働者の過失ではあるが、使用者(会社)の違反行為や不注意の結果として生み出されたものである
 

既往症等による素因減額

労災における素因減額とは、労働者自身の既往症や性格が影響したものとして、損害について支払われるべき額を減額する制度です。

入社前からうつ病を患っていたり、生活習慣病の影響で労災事故の治療期間が長引いたりする場合に、会社側から主張される可能性があります。

もっとも、よく主張される「心や性格の問題」による素因減額の判断については、判例で次のように考え方が示されています。

労働者の性格が(同種の業務に従事する労働者の構成の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない)場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の様態等を、心因的要因としてしんしゃくすることはできないというべきである。
—最高裁平成12年3月24日判決(電通事件)
 

労災保険給付による損害賠償金の調整

労災保険給付がある場合、労働者が受け取るべき額の一部について支払いが完了したものとして、その残りを請求することで会社が負担します。保険金との二重受給を防ぐためのルールですが、保険給付全体が控除対象となるわけではありません(下記参照)。

▼労災保険給付のうち、損害賠償金から控除されない部分(一例)
・特別支給金(休業給付の上乗せ部分等)
・口頭弁論終結時までに支給されない部分(将来分の遺族年金等)
・過失相殺が原因で、労災保険給付によって事実上過払いとなっている治療費・休業損害等(別の費目である慰謝料等から控除することは認められない)
 

労災事故による損害賠償金の相場

労災事故による損害賠償金の相場 労災事故による損害賠償の相場は、怪我の程度や後遺障害の有無によって異なります。

当然、事故の結果が重くなるほど金額は大きくなります。以下では、会社に請求する額に着目して計算例及び相場を紹介すると、以下のようになります。

怪我から回復したケースの相場

労災事故で怪我から回復した場合の損害賠償額の相場は、労災保険から治療費の全額について受け取った上で、会社に対する請求は数万円~数十万円が相場となります。

怪我によっては数百万円となります。会社に対する請求とは、損害のうちの入通院慰謝料の部分です。

【例】会社に対する請求額(入通院慰謝料)の基準
1か月入院・1か月通院の場合 77万円
1か月入院・3か月通院の場合 115万円
2か月入院・5か月通院の場合 173万円
3か月入院・8か月通院の場合 222万円

後遺障害ありで症状固定したケースの相場

労災事故で後遺障害が残る場合の損害賠償の相場は、労災保険で介護・障害補償を受け取った上で、会社に対する請求は数百万円から数千万円程度となります。

事案によっては1億円を超える場合もあります。会社に対する請求の中心となるのは、後遺障害慰謝料の全額と、逸失利益のうち保険給付だけでは不足する部分です。

【例】年収600万円の42歳男性。労災事故により左手中指がほとんど動かなくなり、後遺障害等級12級と認定された場合
入通院慰謝料(入院1か月+通院3か月)= 115万円
後遺障害逸失利益 = 600万円 × 労働能力喪失率14% × 中間利息控除に対応するライプニッツ係数17.413 ≒ 1,462万円
後遺障害慰謝料 = 290万円
最終的な損害賠償額 = 1,462万円 + 290万円 + 治療費等
 

死亡したケースの相場

労災事故で死亡した場合の損害賠償の相場は、会社に対する請求で数千万円から一億円以上となることもあります。

特に、家族の扶養義務がある労働者が亡くなった場合、保険給付では不足する逸失利益や近親者固有の慰謝料などが加算され、高額化します。

【例】年収600万円の42歳男性。妻と子1人を扶養中、労災事故により死亡した場合
死亡逸失利益:600万円 ×(100-生活費控除率30)% × 中間利息控除に対応するライプニッツ係数17.413 ≒ 7,313万円
死亡慰謝料:本人分2,800万円 = 2,800万円
最終的な損害賠償額 = 7,313万円+2,800万円 + 治療費等
 

労災で損害賠償請求する時の方法・手続きの流れ

労災事故で会社に損害賠償請求しようとする時の方法は、裁判外での和解に向けた協議(示談交渉)と、裁判所での審判・調停・訴訟の2つです。

これら請求手続に至るまでの間には、次のようなステップが存在します。

まずは症状固定まで十分に治療する

損害賠償請求をする前に、まずは症状固定日まで十分に治療を受けることが重要です。

ここで言う「症状固定」は医学用語ではありません。労災トラブルの対応に置いて、医学的に有効とみられる治療を続けても、これ以上の症状の改善はないと見込まれた時点を指します。

身体に生じた損害について正しく評価できるのは症状固定日以降であり、その日を迎えるまで和解せずしっかりと治療を続けなければなりません。

また、症状固定または治療終了のタイミングで医師から意見書を取得しておくと、損害賠償請求に必要な立証手段となります。

労災申請と同時に証拠収集する

実際の労災事故では、治療費について保険給付(療養給付)を得るため、治療中の早い段階で労災申請するのが一般的です。

会社に損害賠償請求しようとする時は、上記保険給付のための手続と同時に、会社の責任及び過失の度合いを証明する資料を集めなくてはなりません。

会社との示談交渉を試みる

労災事故について証拠収集が完了した段階で、損害賠償請求の実践として示談交渉を試みます。

はじめから裁判手続を利用しないのは、自主的に話し合った方が、会社の出方しだいで早期解決できる期待が大きいからです。

この時、以下のポイントには注意して進めなくてはなりません。

・損害賠償額の算定方法を明確にする
・遅くとも交渉の直前には弁護士に相談する
・被災者や遺族の主張を整理し、対応する証拠を明確に提示する
 

示談成立に至らない場合は労働審判・調停・訴訟へ

示談しても主張が受け入れられず解決できない時は、やむなく労働審判や民事調停・民事訴訟の手続きに踏み切ります。

過失割合など争点が限定的なケースは労働審判でも解決が期待できるものの、会社が労働者側の主張を頑なに受け入れようとしない場合は、民事訴訟を提起して腰を据えて解決に臨むことになるでしょう。
いずれの場合も、申立書作成や裁判所での対応には、弁護士が有する専門的なスキルが必要です。

労災事故で損害賠償請求しようとする時の注意点

損害賠償請求しようとする時の注意点 労災事故で損害賠償請求が必要なケースでは、手続に関する誤解や慎重に扱うべきケースに注意しましょう。

労災認定との関係や、請求権の消滅時効、そして被災者らだけでは適切に権利行使できるか危ぶまれる重大事故等の取扱いです。

労災認定と損害賠償責任の関係

損害賠償請求しようとする場合には、労災申請とは別に、会社の法的責任や過失相殺について明らかにする手続が必要だと認識しておかなくてはなりません。

労災認定とは、労働者災害補償保険法に基づく補償を目的として、会社が事故原因について責任を負うか否かに関わらず下りるものです。

労災保険給付と合わせて会社に損害賠償させたい時は、民事トラブル解決を目的として、会社の法的責任や過失の程度を立証する必要があります。

労災の損害賠償請求には時効がある

労災事故の損害賠償請求権には、人の生命又は身体の侵害による場合は、一定の定められた時から5年の消滅時効があります(民法第166条~第167条・第724条~第724条の2)。

会社への請求について考えられるようになるまで時間を費やしてしまっている場合は、急ぎ着手しなければなりません。
具体的には、治療が長引いて症状固定日まで年単位の時間がかかるケースが考えられます。

重大事故・過労死・うつ病は一刻も早く弁護士への相談を

重大事故や過労死、うつ病の場合は、一刻も早く弁護士へ相談することが重要です。

これらのケースでは、所定基準による労災認定が難しい場合や、相手方の対応が悪いことが多々あります。

また、過労死やうつ病の場合は、労働環境や労働時間の問題が関与していることが多く、専門家の知見が必要です。弁護士に相談することで、適切な証拠収集や交渉が進められ、より良い解決が期待できます。

おわりに│労災事故の損害賠償請求への対応

最終的な損害賠償額の相場は、傷害のみで回復すれば数万円から数十万円程度となることが多いものの、後遺障害や死亡といった結果なら数千万円以上となりがちです。

適切な額を獲得するため、過失や素因について労働者に非がないことを立証し、必要であれば訴訟も辞さずしっかりと対応する必要があります。

労災申請や、消滅時効を気に掛けながらの証拠収集等、被災者らにとって負担の重い部分です。

もしもの時は、早々に弁護士に相談し、適切な対応のためのアドバイスから手続まで任せると安心です。

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