労働災害SOS|みらい総合法律事務所

過労死が労災認定されるための条件とは?

最終更新日 2024年 02月20日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠

大切なご家族が、長時間の過重労働により過労死した場合、労災認定される可能性があります。

労災認定を受けると、保険給付によりご遺族は補償を受けることができます。

ここでは、長時間の過重労働による過労死の労災認定基準について法的に解説します。

過労死の労災認定には基準がある

過労死の労災認定については、厚生労働省の「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」(令和3年9月14日)という行政通達を基準とします。

通達といわれると難しそうですが、それはそうなのです。

なぜなら、通達というのは行政機関内部の文書で、上部組織が下部組織や職員に対して、法令の統一的見解や解釈、事務取扱上の基準などを示した文章だからです。

通達は国民を法的に拘束するものではありませんが、労働行政は通達に基づいて執行されるわけですから、事実上は拘束力を持っている通達も多くあります。

しかしこの通達、かなりボリュームのある内容で、一度読んだだけではすべてを把握するのは難しいと思います。

そこで、ここでは以下にポイントをまとめながら、労災とその認定について解説していきたいと思います。

労災とは?

労働者の業務中の負傷(ケガ)、疾病(病気)、障害、死亡を「労働災害(労災)」といいます。

労災は、「業務災害」と「通勤災害」という2つの種類に分けられます。

「業務災害」というのは、文字通り業務中(仕事中)にケガをしたり、病気になる場合です。

「通勤災害」は、通勤中の交通事故などによるケガや死亡の場合です。

業務災害では、業務と労働者の負傷、疾病、障害、死亡との間に因果関係がある場合に労災と認められます。

その際には、2つの基準を中心に判断されます。

(1)業務遂行性=労働者が使用者の支配下にある状態

(2)業務起因性=業務に内在する危険性が現実化し、業務と死傷病の間に一定の因果関係があること。

過労死とは?

業務災害のうち、病気によるものを「疾病災害」といい、次の3種類があります。

(1)災害性疾病=業務遂行中での突発的事故に起因する疾病

(2)職業性疾病=じん肺症、脛肩腕症候群、潜水病、皮膚疾患、中皮腫などの職業病

(3)作業関連疾患=遺伝や生活習慣などにより、その労働者にもとから内在していた私病が業務起因で発症、または増悪した場合、過重な業務による心理的負荷から精神障害を発症した場合など


過労死とは、長時間の過重労働等のストレスなどが起因となって、脳血管疾患や虚血性心疾患を発症し、死に至るものですから、上記(3)の作業関連疾患の典型例といえます

過労死の基準とは?

行政通達の「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」(令和3年9月14日)についてによると、過労死の考え方や疾病の種類、認定基準は次のようになっています。

過労死の基本的な考え方

・業務による明らかな過重負荷が加わることによって、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し、脳・心臓疾患が発症する場合があり、そのような経過をたどり発症した脳・心臓疾患は、その発症に当たって業務が相対的に有力な原因であると判断し、業務に起因する疾病として取り扱う。

・このような脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼす業務による明らかな過重負荷として、発症に近接した時期における負荷のほか、長期間にわたる疲労の蓄積も考慮する。

・業務による過重負荷の判断に当たっては、労働時間の長さ等で表される業務量や、業務内容、作業環境等を具体的かつ客観的に把握し、総合的に判断する必要がある。
(通達の本文より抜粋)

対象疾病

認定基準では、次の脳・心臓疾患を対象疾病としています。

1.脳血管疾患
➀ 脳内出血(脳出血)
➁ くも膜下出血
➂ 脳梗塞
➃ 高血圧性脳症

2.虚血性心疾患等
➀ 心筋梗塞
➁ 狭心症
➂ 心停止(心臓性突然死を含む。)
➃ 重篤な心不全 ➄ 解離性大動脈瘤

認定要件

これは、業務の「過重性」を3段階で評価するものです。

1.発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと。

2.発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと。

3.発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと。

異常な出来事とは?

異常な出来事」とは次のものをいいます。

1.極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態

2.緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態

3.急激で著しい作業環境の変化

異常な出来事と発症との関連性については、通常、負荷を受けてから24時間以内に症状が出現するとされています。

よって、発症直前から前日までの間を評価期間とします。

短期間および長期間の過重業務とは?

特に過重な業務とは、日常業務に比較して特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいいます。



短期間とは、発症前おおむね1週間を評価期間とします。
長期間とは、発症前おおむね6ヵ月間です。



また、特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては、業務量、業務内容、作業環境等を考慮し、同僚労働者にとっても特に過重な身体的、精神的負荷と認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断します。



具体的な負荷要因としては次のものがあげられます。

・労働時間
・拘束時間の長い勤務
・休日のない連続勤務
・勤務間インターバルが短い勤務
・不規則な勤務・交代制勤務・深夜勤務
・出張の多い勤務
・その他事業場外における移動を伴う業務
・心理的負荷を伴う業務
・身体的負荷を伴う業務
・作業環境(温度環境・騒音・時差)

労働時間の評価の目安

過労死の認定基準において、労働時間の評価の目安には「過労死ライン」が用いられます。

これは、健康障害リスクが高まるとする時間外労働時間を指すもので、次のような基準となっています。



1.発症前の1ヵ月ないし6ヵ月間にわたって、時間外労働が、1ヵ月あたりおおむね45時間を超えて時間外労働長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まる。

2.発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合、業務と発症との関連性は強い。
(1日8時間勤務で1か月の労働日を20日とすると、1日4時間の時間外労働をして、1日12時間勤務が続く状態。又は労働日の20日各2時間の時間外労働と、1日10時間勤務で4日の法定外休日出勤という1日10時間勤務が続く状態)

3.発症前1ヵ月間におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合、業務と発症との関連性は強い。
(1日8時間勤務で1ヵ月の労働日を20日とすると、1日5時間の時間外労働をして、1日13時間勤務が続く状態。又は労働日の20日各2時間50分の時間外労働と、1日10時間50分勤務で4日の法定外休日出勤という1日10時間50分勤務が続く状態)

労働時間と労働時間以外の負荷要因の考え方

労働時間以外の負荷要因において一定の負荷が認められる場合には、労働時間の状況をも総合的に考慮し、業務と発症との関連性が強いといえるかどうかを適切に判断することとされています。 その際、上記の労働時間のの水準には至らないがこれに近い時間外労働が認められる場合には、特に他の負荷要因の状況を十分に考慮し、そのような時間外労働に加えて一定の労働時間以外の負荷が認められるときには、業務と発症との関連性が強いと評価できることを踏まえて判断することとされています。 ここで、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合的に考慮するに当たっては、労働時間がより長ければ労働時間以外の負荷要因による負荷がより小さくとも業務と発症との関連性が強い場合があり、また、労働時間以外の負荷要因による負荷がより大きければ又は多ければ労働時間がより短くとも業務と発症との関連性が強い場合があることに留意することとされています。

過労死の基準とは?

行政通達の「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」(令和3年9月14日)によると、過労死の考え方や疾病の種類、認定基準は次のようになっています。

過労死の認定を受ける手順

(1)労働基準監督署に申請

過労死の労災認定を受けるには、各地域の労働基準監督署に申請をします。

労災の申請では、「労災申請書」といったような、ひとつにまとまった書類があるわけではなく、個々の労災給付内容ごとに、給付金の申請書や請求書を提出しなければいけません。



①請求書関係

労働者が過労死した場合、労災給付として受け取ることができるものには主に「遺族補償給付」及び「葬祭料」があるので、「遺族補償年金支給請求書」と「葬祭料請求書」をそれぞれ作成して、労基署に提出することになります。

なお、請求書には事業主が記載する欄もありますが、事業主が協力しない場合もあります。 その場合は、その旨を記載して提出します。



②その他の書類

添付書類として、戸籍謄本や死亡診断書なども必要になります。

また、脳疾患や心疾患や異常な労働環境や過重勤務によることを説明する意見書なども添付します。

書類提出後、労基署は、ご遺族への聞き取り、会社や病院等への照会など詳細な事項について調査を行ないます。

ご遺族としては、ただ調査を受けるだけではなく、労基署に積極的に連絡をするなどして調査に関わることも大切です。

なお、労災の認定がされるまでの期間は、事案により様々ですが、一応半年程度はみておきましょう。

(2)審査請求と再審査請求

労基署による調査の結果、過労死が労災として認められず、労災給付が「不支給」となる可能性もあります。

その場合は、「労働災害補償保険審査官(労災保険審査官)」に対し、審査請求をすることができます。

審査請求をすると、労災保険審査官があらためて過労死が労災に該当するかどうかの判断をします。

労災保険審査官も労災を認めなかった場合は、「労働保険審査会」に対して再審査請求を行うこともできます。

再審査請求をすると、労働保険審査会があらためて判断をするので、ここで労災が認められる可能性もあります。

(3)訴訟

審査請求をしても労災が認められなかった場合、あるいは申請後3か月を経過しても判断がなされなかった時には、再審査請求をせずに行政訴訟で争うことが可能です。

なお、再審査請求が認められなかった場合にも行政訴訟を提起することができます。

行政訴訟というのは、労災保険審査官や労働保険審査会などの行政機関による判断内容に不服がある場合に、変更を求めて起こす裁判です。

裁判所における労災認定要件は、労基署や労災保険審査官、労働保険審査会の認定要件とは多少異なる点があります。

裁判によって判断が覆るケースがあるので、被害者のご遺族はあきらめずに、労災に強い弁護士に相談することをおすすめします。

過労死の労災認定で必要な証拠集めについて

過労死で労災認定を受けるためには、証明資料を集めることが重要になってきます。

労災の申請をする前に、次のような書類を集める必要があります。

・診断書
・タイムカードや出勤簿
・賃金台帳や給与明細書
・最終退出簿
・施錠記録簿
・作業日誌や業務日報
・警備記録
・携帯電話の発信・着信履歴
・業務におけるメールの送受信記録
・パソコンのログイン・ログオフ記録
・ICカードの記録
・ETCカードの利用履歴
・タクシーの領収書
・被害者本人の手帳やカレンダーなど
・業務での上司とのやり取りを示すメモ・メール・指示書など

これらの証拠資料はすべてが必要なわけではありません。

また、ここにあげたもの以外の資料が必要になる場合もあります。

実際、これらの資料を集めるのは大変な作業ですし、資料がない、見つからないということであきらめてしまうご遺族もいます。

しかし、あきらめないでください。

証拠がないように見えて、じつは過労死を立証できるケースも多くあります。

やはり一度、弁護士に相談してみることをおすすめします。

労災認定には時効がある

過労死で労災申請する場合には「時効」があるので、注意してください。

・療養補償給付、休業補償給付、介護補償給付、葬祭料は2年
・遺族補償給付と障害補償給付は5年

2年を過ぎると葬祭料の申請はできなくなるので、必ず遺族補償給付も含めて2年以内に労災申請をするようにしてください。

労災の申請方法や期限、証拠資料集めの具体的な方法などについては、次の記事で詳しく解説しています。

ぜひ一度、読んでみて、正しい知識を手に入れていただきたいと思います。

会社に損害賠償請求できる場合がある

会社による長時間労働の強要が過労死の原因であるならば、会社にもその責任はあると判断される場合があります。

このようなケースでは、過労死についての労災認定のほかに、会社に対して慰謝料などの損害賠償請求ができる場合があります。

労災による死亡事故の場合、死亡慰謝料の金額には大体の相場があります。

亡くなった人の家庭内での地位や立場によって、次のように金額が変わってきます。

被災者が一家の支柱の場合 2800万円
被災者が母親、配偶者の場合 2500万円
被災者がその他の場合 2000万~ 2500万円


慰謝料請求をするには専門的な知識や実務経験も必要なため、ご遺族が単独で行なうには難しい手続きが多くあります。

やはり一度、弁護士に相談してみることが解決への近道になると思います。

詳しい内容については、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

「労働災害(労災)による過労死での慰謝料請求法を弁護士が解説」
https://www.rousai-sos.jp/karoushi/karoushi.html

過労死の労災認定を弁護士に相談・依頼するメリット

ここまでお話してきたように、過労死による労災認定や使用者(会社)に対する損害賠償請求には、法的、医学的な知識が必要です。

これらの専門家といえば、弁護士です。

労災に被災した場合に、弁護士に相談・依頼するメリットは、主に次のようなことがあります。

・労災認定の審査請求では、弁護士に依頼することで、ご遺族は難しい手続きから解放され、さらには正しく労災認定される可能性が高まる。

・会社が安全配慮義務違反をしたことにより労災事故が発生した場合には、会社に対して損害賠償請求をすることになりますが、法律の専門家である弁護士が、法律や過去の裁判例に基づき、適切な賠償額を計算し、示談交渉・裁判をして、賠償額を獲得してくれる。

ただし、注意が必要なのは弁護士であれば誰でもいいわけではないということ。 必ず過労死の労災認定に詳しい、実務経験が豊富な弁護士に依頼することが大切です。



なお、過労自殺について詳しく知りたい方は次の記事を参考にしてください。

「過労自殺の労災で弁護士に相談すべき8つの理由と3つの注意点」
https://www.rousai-sos.jp/karoushi/karoujisatu_soudan.html

みらい総合法律事務所では、労災による後遺障害や死亡の事案で、これまで数多くの被害者救済を行なっています。

随時、無料相談を行なっていますので、まずは一度、ご連絡ください。

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